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モーツァルトが死んだ。
かつて神童と呼ばれ栄誉をほしいままにした彼の最期は、
とても粗朴で寂しいものだった。
彼の死は、彼の親族たちへ静かに知らされ、
モーツァルトの義姉アロイジアと従妹ベーズレも
それぞれに報を受け取った。
そして、何度目かの冬。
アロイジアとベーズレは時を同じくしてウィーンにいた。
奇妙な縁か、女たちの気まぐれか、いくつかの偶然が積み重なって、
ふたりの共同生活が始まった。
彼女らの愉しみは、その部屋でモーツァルトが残した筆跡を辿ること。
疲弊した世の中にあって、モーツァルトとの思い出はあまりにも輝いていた。
音楽を奏であった日々。
言葉を送りあった日々。
彼のそばには、みちみちた愛情がいつも微笑んでいた。
今夜も、女たちは彼の面影に夢中になっている……
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